菜々「永遠の17歳」

1: 18 ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:39:43.71 ID:kxrxdHuq0
シリアスです。
SF要素強めです。
ほのぼの日常系じゃないです。




11月28日
モバP「ちひろさん、このケーキとか好きそうじゃないか?」

安部菜々「そう…ですね」

今日はウチの事務所のアシスタント、千川ちひろの誕生日だ。
今日までに俺は所属アイドル達と協力してちひろさんの誕生日会の準備をしてきた。

そしてこの、誕生日ケーキの購入。
これを済ませれば全ての準備が終わり、盛大にちひろさん聖誕祭を催すことができる。

ちひろさんはどんな反応するのだろうか。
涙を流して喜ぶのか、それとも驚きで気絶でもするのだろうか。
いつも笑顔の彼女がどんな違った姿を見せてくれるのか、妄想しながらケーキを眺める。

ちひろさんの肌のごとく白いショートケーキを眺めていると、ショウケースに反射し映る、菜々のまつ毛が踊るぱっちりとしたお目目と視線が衝突した。

その眼からは元気の色がみえなかった。
それにいつもよりかなりテンションが落ち着いている。
こういう時はノリノリで、年相応にはしゃぎながら買い物をするタイプだったはずだが。
スポンサーリンク
2: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:41:30.73 ID:kxrxdHuq0
それに先程2人で街中を歩いてまわっていたときは彼女の持ち前の元気さをこれでもかと見せつけられていたものだ。

モバP「なんだか元気がないな。どうしたの?」

菜々「あ、いえ!なんでもないんです!全然元気ですよ!!キャハッ!!」

と、菜々は勢いだけはある返事をしてきた。
…もしかしてこれで誤魔化しているつもりなのだろうか。
だとしたら中々俺も舐められたものだな。
もう何ヶ月お前と付き合っていると思っているんだか。

思えば最近菜々が思いつめた顔をしている事をよく見る気がする。

モバP「そうは言うけどさ、普通にわかるぞ?菜々がいつもより元気ないの。だってもう半年は一緒にいるんだぜ?」

菜々「ははは…やっぱりわかっちゃいますか…でも、ごめんなさい…」

彼女の反応から中々深刻な悩みを隠していることを察した。
このケーキ屋に来るまでになにかあったのか?

昨日オーディションに落ちた時もそう凹まなかった菜々だ。

よほど大きな悩みなのではないだろうか。
3: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:42:17.92 ID:kxrxdHuq0
モバP「で、何かあったのか?」

菜々「…いえ、その…すみません、今は言えません」

正直とても気になるが彼女がまだ言えないというなら聞かないでおくのが最善か…
俺が気づかぬうちに何かしてしまったのだろうか。
まずいな、心当たりがまるで無い。

モバP「そうか…」

情けない事に気を遣った返事が思いつかず、素っ気ない反応を返してしまった。

店員「あの…お客様。他の方が待たれているのでご注文でしたら早めにお願いできますでしょうか…?」

これはいけない。
どうやら俺たちは色とりどりのケーキが並ぶショウケースの前で話し込んでいたようだ。
後ろで他のお客さんが迷惑そうに眉をひそめている。
恥ずかしいな…顔が熱い。

モバP「す、すみません!えっと、じゃあこのショートケーキを…」

そそくさと財布を取り出し、代金を支払い、ケーキを受け取り、恥ずかしさからイチゴのように染まった頬を隠すように口に掌を当てながら早足で店を出た。
4: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:43:24.36 ID:kxrxdHuq0
店の自動ドアを通り過ぎると、太陽の光が眩く、たまらず目を細めてしまう。
青空に輝く太陽がアスファルトに俺たちの影を色濃く写していた。

途端右腕が突然ぬくもりを感じ取った。
ちらりと横目で右を見ると菜々が僕の腕にぎゅっとしがみついていた。
腕を組む、というよりは腕を守るかのように抱いている。

もしかしてあまりに真剣にケーキを選んでいたからちひろさんに嫉妬でもしているのだろうか…?
必死で俺の腕を抱く菜々を温かい目で見ながら、俺はそんな呑気な事を考えていた。

菜々はまだ口を開こうとしないので、俺も何も聞かないでいた。
2人の影は重なったまま、ケーキ屋の元から離れていった。

とりあえずこれで買い出しは終了だ。
事務所…ではなく、事前に予約していた誕生日会の会場へ向かう。
今日は日曜日だから仕事もない。

一応買い出しに漏れが無いか確かめとくか、とカバンから手帳を取り出し開く。

クラッカーも買ったしプレゼントも買った…
大丈夫そうだな。
5: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:44:30.49 ID:kxrxdHuq0
モバP「あれ?」

手帳を閉じ、カバンに仕舞おうとしたところで不意に口からこぼれ落ちた。

菜々「どうかしましたか?」

菜々が上目遣いでこちらを伺ってくる。
なんだか、小動物のような愛くるしさを感じた。

モバP「いや、手帳を見てふと思ったんだけどさ。アイドルのスケジュールってちひろさんも当然把握してるでしょ?だったら今日アイドルの殆どが仕事入れてない事知ってるわけだし、誕生日会の事もばれてるんじゃないかなあと。これじゃあサプライズにならねくね?」

当日考えたところで仕方ないことだが。
というか、今まで誰もそれを指摘した者がいない事にも少し驚いてしまった。

菜々「たしかにそう言われるとそうですね…でもまあ大丈夫ですよ、多少サプライズ感は無くても気持ちは伝わります」

元気は無いけどこの前向きな考え方はいつもの通りだな。
確かにそうだな、とだけ答えて再び足を動かした。
6: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:45:20.81 ID:kxrxdHuq0
暫く歩いていると菜々から話をふってきた。

菜々「…しかし、変装しているとはいえ、スキャンダルとか大丈夫ですかね」

自分から抱きついておきながら何を言っているんだこやつは。
マスクをしているし髪もおろしている。
完全に今の姿はウサミン星人系アイドルの安部菜々とはまた別の姿だ。
メルヘンチェンジ前と言ったところか。

モバP「そんな心配なら念のため離れておいた方がいいんじゃ…」

菜々「それはできません!」

どうやらこのひっつき虫状態は菜々の確固たる意志から形成されているものらしい。
勿論こちらとしても(何が、とは言わないが)嬉しい感触を味わえるので嬉しい限りではあるのだが。

それにしてもどうしてこんなに必死にくっついているんだろうか。
俺のぬくもりを感じたいとかそんな甘々な理由かなとも思ってみたがそれも違うらしい。

もし仮にそれが目的ならば今の菜々の表情は欲しいものを得られた満足感から笑顔になっているはずだ。

菜々からはそういった満足感はかんじられない。
どちらかというと菜々は何かから必死に俺を守るような、そんな風に見えた。
何か悩んでいるのはわかっていても、何に悩んでいるのかはわからない。

半年、恋人として付き合っていても気持ちをわかってやれない。
俺も学生の様に若々しい恋愛観を持っているわけではないので、仕方ないことだというのはわかるが、どうしても不甲斐なく感じてしまう。

…しかし、こうして見つめていると、やはり菜々は可愛いな、なんて思ってしまう。
マスクをしていても、顔は隠せてもその可愛さは全く隠れていないようだ。

気づけば足は止まり、道の途中お互いの瞳をじっと見つめあっていた。
はたから見たら相当なバカップルである。

ここは人通りが少ないわけでもないので何人もの人の注目を浴びる。
なんだかまた恥ずかしくなってきた。
今日は頬が赤くなってばっかりだな。

いつまでもここに居ても恥ずかしいだけだし、早いとこ移動しなければ。

モバP「菜々、なんか他に買いたい物とかある?」

菜々「いえ、ナナは大丈夫です」

それならさっさと駐車場に戻って会場に向かおう。
そう決めると早足で向かった。
7: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:46:10.99 ID:kxrxdHuq0
モバP「さて、車で会場までひとっ飛びといこうじゃないかー」

車のドアを開け、乗り込みながらそんなことを言ってみる。
菜々が元気ない分ちょっとこっちがテンションあげてみた。

菜々「ひとっ飛び…地球の車に飛行機能なんてついてましたっけ?」

…たまに繰り出される菜々のウサミンボケだ。

いつからか分からないが頻発するようになっていた。

元気のない割にこんなことは言えるのね、と少し関心した。

菜々の方を見てみると、私は大丈夫と言わんばかりに笑顔を作っていた。
少しでも俺に心配をかけさせたくないらしい。

唐突なボケの対応に困り俺はたまらずエンジンをかけ、車を発進させた。
8: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:47:07.79 ID:kxrxdHuq0
モバP「…菜々がウサミンキャラを始めてからもう半年くらいか。あれからみるみる成長していったなぁ…」

菜々のちょっとしたボケからそんなことを思ってしまった。

菜々「…そうですね」

複雑な表情をしている。
俺の今の言い方だと菜々の実力じゃなくてウサミンのキャラのおかげで売れた…みたいな風に聞こえてしまったかな。

モバP「大丈夫だ、ウサミンじゃない菜々も魅力的だよ。今もね」

咄嗟にフォローを入れる。
フォローといっても実際俺はそう考えているし、ただ率直に俺の思いを伝えただけだが。

菜々「えっ、な、なんですか急に」

恥ずかしがるとか照れるとかじゃなくて、只々驚いている菜々。
どうやら俺の言ったことを誤解して複雑な表情をした、とかでは無かったらしい。
つまり俺のフォローはお門違いであった。

らしくないキマッたセリフを口にした事もありより一層恥ずかしくなってきた。
ハンドルを握る手がみるみる湿っていく。
…また恥をかいたな。
9: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:48:29.18 ID:kxrxdHuq0
気恥ずかしさから俺はすっかり黙ってしまった。
というより、何を言えばいいのかわからなくなってしまった。

菜々も菜々で複雑な顔をしたまま、黙っていた。
一体何に悩んでいるんだろう。
聞いてもまだ教えてくれないのだろうか。
二人の間に重い扉でもあるかのように感じた。

数分後、意外にも、この沈黙の扉を開けたのは菜々だった。

菜々「この半年…いや、私と出会った約一年前から今日までプロデューサーは長かったですか?短かったですか?」

モバP「なんだいきなり…うーん、あっという間…という程でもないけどやっぱり短かったかな。色々仕事とか忙しかったし、何より凄い楽しかったから」

菜々「ナナは…ナナは長い、ですかね」

菜々は遠くをぼんやりと見つめながらそう話す。
俺は菜々がどういう意図で話しているのかわからず、へえ、とだけしか答える事ができなかった。

菜々「あ、いや!もちろん、つまらなかったから長く感じたーとかそういうわけじゃないですよ!憧れのアイドルにも慣れて、色んな経験ができて、大好きなプロデューサーさんと一緒にいれて、ナナも凄い楽しかったです!」

モバP「俺も大好きな菜々を近くで眺められて幸せだよ。でも、そんなに楽しかったら普通は時間経つの早く感じない?」
10: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:49:24.16 ID:kxrxdHuq0
菜々「…それはやっぱり不慣れな土地での生活とか、メイドのバイトとか、苦労も沢山あったからです」

きっと菜々は嘘は言っていないのだろうが、俺はなにか違和感を感じ取った。
嘘ではないが何か他に思いを隠しているような、そんな言い方に聞き取ってしまった。
青から黄色に変わる信号の下を、そのまま走り抜けた。

菜々「それにウサミン星と言語も違いますからねー」

また唐突なウサミンボケか…

モバP「…前から気になってたがどうやって地球の、しかも中でも小ちゃい島国の言語を学んだんだい?」

さっきは乗ってあげられなかったわけだし今度はネタに乗ってあげることにした。
乗るしかないのだ、このビックウェーブに。

菜々「それはあれです!言語理解装置を使ったんです。ウサミン星は地球よりも文明が発達しているのでそんな素敵なアイテムもあるんですよ」

モバP「それはどういう理屈で言語を理解できるんだ…」

菜々「半径15キロ圏内の人の音声や脳のデータを集めて言語の発音や法則を解析してナナの脳にデータを移してくれるんです!」

モバP「…そりゃあ凄い」

初めて菜々のウサミン設定を聞いた時も思ったが…無駄に凝ってるよな。
自信満々な言い方を見てると将来地球でも本当にそんな装置が出てくるんじゃないかとまで思えてくる。

ていうか菜々が本当にそんな装置を持っているんじゃないかとも。

しかし、脳にデータを移すってなかなか怖い設定だ。
SF小説とかだったら、その装置が勝手に変なデータとかを脳に発信して…とかありそうだな。
11: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:50:24.25 ID:kxrxdHuq0
モバP「日曜なのに中々空いてるなー」

今日は運がいいようだ。
車の通りも少なく、いつも渋滞しがちなこの道路を優雅に走っていられるなんて。

おっと。自分の感覚以上にスピードが出てたようだ。
隣に菜々もいるわけだし、安全運転で行かなきゃな。
青信号の交差点に少しアクセルをゆるめながら入っていく。

右からちらりと高速で動く何かが見え

ガシャン!

突如、爆音が鳴り響きドアはくしゃくしゃにした折り紙のように凹み、フロントガラスは砕け散った。

あれ…俺の車の内装って赤色だったっけ。
俺真っ赤な服なんて着てたっけ?

それが自分の胸から溢れ出る血だ、ということを自覚すると同時に、今まで経験した事のない何とも形容し難い激痛が走った。

ああ、俺事故ったのか。

モバP「…ぁ……っぁ…な…」

声が、全く出せなかった。
代わりに煮込んだトマトのようなドロドロの赤が出るだけだった。

濡れて、血か
あたまがまわらない…
このまま、死ぬのか?
こんなあっけなく終わるのか?
ちがう、そうじゃなくて、なな、どうなって…

凍りついたように動かない首を、筋肉が千切れるんじゃあないかと言わんばかりに無理やり捻り、左に座っている菜々の方へと顔を向ける。
幸い菜々は軽傷で、無事だったようだ。

あの勢いで衝突されて、無事だった。
奇跡というやつだろうか。

菜々は悲鳴をあげるでもなく、泣くでもなく、ただ呆然と何かを呟いていた。
その視線はどこを捉えているのか、こちらからはまるで分からなかった。

機械音みたいな耳鳴が頭を埋め尽くす。
目も、見える景色はどんどんと白い光に包まれていく。

小学校の日々、中学生の日々、高校生、大学生、プロデューサー。
数々の思い出が交錯する。
これが所謂走馬灯というやつなのだろう。
菜々。
死にたくないなあ。

でも、もうだめだ…
目も見えない、とうとう耳鳴も消えた。

死、という現実から俺は昨日の菜々との会話を思い出した。
激痛の海に沈みながら、瞼を落とした。
眼前まで迫る絶対的なものを誤魔化すかの様に。
12: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:51:26.58 ID:kxrxdHuq0
11月27日
菜々「…また…ダメでした…」

菜々が俯きながらそう呟いた。
俺たちはとある企画のオーディションに受けて、結果落選した。
最近アイドル安部菜々は非常に調子が良かっただけに、このオーディションは絶対受かると思っていたのだが…
現実はそう甘くないらしい。

モバP「そう悲しい顔をするな。こういうときだっていくらでもあるさ」

菜々「…」

いつになく凹んでいる様子だ。
今までも何度かオーディションに落選したことはあったが、こんな、世の終わりを眼にしたかの様なまでの落ち込み具合を見るのは初めてだ。
今回の仕事は余程やりたかったらしい。
13: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:52:12.62 ID:kxrxdHuq0
俺も凹んでいるせいか、身体がいつもより怠く、呼吸も心なしか苦しく感じた。
それに長時間立っていたからか、少し貧血気味だ。
これから車で菜々を送るんだ、気をしっかり持たなければ。

菜々「…これで、19回目…」

モバP「…それはどういう意味だ?」

まさかオーディションに落選した回数でも数えてるのだろうか。
だとしたら中々のネガティヴ具合だな。

菜々「ナナが今までに、失敗してきた回数です」

モバP「…そんなん数えるなよ、余計悲しくなるぞ」

というか失敗を19回しかしてないなんてむしろ凄いと思うんだが。
14: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:52:49.37 ID:kxrxdHuq0
菜々「嫌でも数えてしまいます…」

事務所へ引き返すため、車へ乗り、エンジンをかけた。
午後20時、辺りはすっかり暗くなっていた。

菜々「こんな時間に戻ってもどうしようもないのはわかってる…」

事務所に戻ってレッスンでもするつもりだったのだろうか。
だとしたら確かに今戻っても遅すぎるな。

菜々「…このまま、このまま永遠に、プロデューサーさんと楽しく、過ごし続ければ、いい…のかな」

モバP「…何を言っているんだ?」

菜々「いえ、その、なんだろう…疲れちゃったのかな…でも、それが一番というか、もうそれしか無いと思うんですよ」

菜々が何を言っているのか一切合切理解できなかったが、この夜よりも深い闇、のようものが菜々の目に宿っているようにも見えた。
15: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 02:53:47.62 ID:kxrxdHuq0
モバP「…何か悩みがあるなら、聞くぞ?ていうか聞かせてくれ」

菜々「もう私十分頑張ったと思うんです。だから、これからは少し夢を見ようかなって…幸せな夢を見続けて、夢が終わりそうになったらまた、始まりに戻す。そうやって…幸せに過ごしていけばいいのかなって」

曖昧な事しか口に出さない菜々に困惑した。
普段はオーディションで落ちた位でこんなに凹まないはずなのに。
気づかぬうちに無理をさせてきたのか…?

不意に、鬱病になる人っていうのは抱え込んでしまう人が多い、という話を思い出した。
今までどうして気づかなかった。
ずっと一緒にいたのに、菜々の変化にどうして気づかなかったんだろう…
俺の中の罪悪感はどんどんと膨れ上がっていった。

モバP「ごめん、そんなに抱え込んでいたんだな…気づかなくて、ごめん」

菜々「いいんです、これは自分で決めたこと。それに、あなたと過ごす毎日は幸せで溢れていて…素敵です。だか、これからも、永遠に続くようにすればいいんです」

相変わらず掴み難い、本心の読めない事を言っている。
様子のおかしい菜々に俺の中に、言い表し難い恐怖のようなものが顔を出した。
動悸が少しおかしい。
菜々の胸の内はどうなってしまっているのだろうか。
24: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 19:37:37.68 ID:kxrxdHuq0
菜々「そうですか…」

喜んでいるのか悲しんでいるのかわからない一言を発してから、何か次に言い出そうとしているのか、口を開いたり閉じたりしていた。
しかし、それから菜々が声を発する事はなかった。

菜々の気持ちがわからず、モヤモヤとした黒い霧が辺りに漂っているようで、より一層息苦しさを感じた。
25: ◆d0hZ1USyYNJW 2015/12/06(日) 19:39:08.19 ID:kxrxdHuq0
お互い無言のまま、事務所へ到着した。
重苦しい空気からか永遠に続くかのように思えた道路もようやく終わった。
思わず、ふう、と無意識に一息ついてしまった。

俺は車から降りようと立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。
呼吸が急激に苦しくなる。
突然、胸にバーナーで熱せられた鉄の棒を突き刺されたかのような熱い痛みが走った。
堪らず胸を強く抑える。
爪で皮を引きちぎるんじゃないかと思えるほど強く押さえた。

モバP「ぉぐっ…ぁっ!…」
声にならない声が自分の口から漏れた。
苦しい、胸が燃えているようだ。

あ、れ…?
三半規管が狂ったのか、地面に立っている感覚が全く無かった。
そのままこの空中で回転しながら漂うような感覚に抗うこともできず、地面に伏してしまった。
次第に視界も、コップに墨汁の雫をを零したかのように、黒に染まっていく。
菜々の声が遠く、遠く離れていく。
灼熱から解放されて、不思議と心地よい、昇天するかの様な感覚に身を委ね、俺は気を失った。
スポンサーリンク
arrow_upward
arrow_upward